※この記事の内容は、弊社ゼネラル・パートナーの村上由美子が共同通信に寄稿したものです。
デンマークの首都コペンハーゲンの街中にこの夏、緑色の巨大な洗濯機が登場した。人々の目を引く異様な物体は、グリーンウォッシュ(見せかけの環境対応)を皮肉ったオブジェだ。環境保全や社会問題、企業統治に取り組んでいるかどうかを重視して企業に資金を投じる「ESG投資」の流れをリードする欧州では、偽善的な投資家への警戒が高まっている。
罰金
環境保全などに高い関心を持つ顧客向けに、ESGを掲げた金融商品を販売する資産運用会社が急増した。中には実態を伴わない商品も散見され、投資に関するルール整備が求められている。
欧州最大級の資産運用規模を誇るドイツ銀行系運用会社DWSは、ESG投資で誤解を招くような表現を使ったとして、9月に1900万ドル(28億円強)の罰金を科せられた。グリーンウォッシュ関連の罰金としては最大だった。
欧州連合(EU)の監督当局は、運用会社に対する規制を強化。ESG関連情報の開示を義務付けるサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の適用が、2023年1月に始まった。
新しい基準で開示される情報に基づいて金融商品を評価、分類し、開示水準を満たせない運用会社は欧州市場から今後、締め出されかねない。
日本に投資してきた運用会社も今後、投資先企業から十分な情報が得られない場合、投資対象から外す可能性が出てきた。データ不足が目立つ日本企業は早急な対応を迫られている。
一方、米国ではESG投資の賛否を巡って政治的な論争が起きている。具体的には、社会正義に目覚めたことを指す「woke(ウォーク)」イデオロギーの押し付けと批判する共和党と、気候変動問題などに対応した政策を擁護する民主党の対立が激化している。
共和党が優勢な州の多くで反ESG運動が勢いを増し、フロリダ州では包括的にESG投資の活動を制限する法案が可決された。地方債を発行する際に環境保全をはじめとした要素を考慮するのを禁じ、年金基金の投融資でも気候変動対策などを投融資の評価に組み込まないよう義務付けた。
争点
この運動を加速させた要因の1つが、ウクライナ戦争をきっかけとしたエネルギー危機である。高騰する化石燃料価格の恩恵を受ける企業への投資は大きな利益を上げた。半面、環境への負荷が小さい企業への投資を優先するESG投資のリターンが相対的に低くなる現象が広がり、反ESG派は資産運用を担う受託者の責任放棄だと厳しく批判している。
エネルギー源の石炭回帰が鮮明になる中で、銀行などの金融機関が化石燃料関連事業への投融資を一気に減らすのは難しくなっている。大統領選を来年に控えた米国では、今後もESGが争点として扱われる可能性が高い。
このように、世界的に急増したESG投資は欧米諸国で軌道修正を図る動きが表面化し、転機を迎えた。日本も取り組み方を再考する必要があろう。
その根本的な狙いは、ESGに関連した問題により企業が直面する可能性のある重大なリスクを特定、分析した上で投資判断を下すことである。
ESGへの配慮を企業価値の向上につなげていくには、企業にとってのマテリアリティ(重要課題)を的確に識別することが重要だ。
例えば、企業が気候変動に伴う長期的なビジネスリスクを重要課題であると認識し、リスク低減策を講じている場合、その情報を投資家は投資リターンの予測に反映することができる。
あるいは人的資本に関する企業の情報は、投資家にとって当該企業の将来の競争力を推測する材料となり得る。
こうした非財務情報の開示水準が高まる中で、どんな情報が何を判断するために有益なのかという視点を、企業と投資家はともに再認識する必要がある。
そうすることで企業は情報開示そのものが目的化するのを防げるであろう。投資家にとっても長期的な投資リターンの向上に役立てるというESG投資の原点に戻ることにつながるのではないか。
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