スタートアップのESGに懐疑的だった助太刀が、実践で得られた効果とは
2023.06.12 MPower Partners Team

ESGを実践するスタートアップは増えているものの、まだまだ少数派。そんな状況を逆手に取って「ESGをしっかり実践しているスタートアップ」として評価を高めている企業があります。

2017年に創業した株式会社助太刀は、「建設現場を魅力ある職場に」というミッションを追求するスタートアップです。同社は2022年にMPower Partners Fundの出資を受けたのを機にESGに取り組み始め、その3か月後にサステナビリティサイトを公開しました。

同社の代表取締役社長兼CEOの我妻陽一氏はもともとESGに熱心だったわけではなく、むしろ「ESGは上場企業の話だと思っていた」と話します。そんな助太刀はどのように短期間で現在の取り組みに至ったのか、我妻氏と執行役員CCOの大塚裕太氏に聞きました。

ビジネスモデルがSに直結すると聞いて、ESGが身近に

もともとESGに対して、E(環境)の部分が強いイメージだったという我妻氏。スタートアップとしてできることがどのくらいあるのか懐疑的だったといいます。

しかしMPowerとの議論を重ねるうちに、自社の事業そのものがS(社会)の実践だと納得するようになりました。

助太刀が提供するのは、建設業界の事業者同士をつなげるプラットフォームです。現場の職人を含めた関係者が希望に合う仕事や取引先を見つけやすくなれば、やりがいと誇りを持って働ける人が増えるはず。そんな信念のもと、同社はこれまで建設業界の労働力不足解消という大きな社会課題の解決に挑んできました。

助太刀が普及すれば、重層下請け構造の下の方で働く人々の環境が改善する。それこそがESGのSの領域に該当することだと指摘されて、腑に落ちました。それだったら頑張ってみたいと思ったんです」。

社内の人材定着に注力するほか、取締役・監査役レベルでダイバーシティを推進

この1年半で組織が急拡大した助太刀では、Sの領域、とりわけ人材採用に力を入れています。その肝は、採用チームをしっかり固めたこと。役員1名とメンバー4名からなるこのチームは、1年で約100人もの採用を行いました。

さらに採用後の定着を図るためにピープル&カルチャーチームを発足。新規採用者に対するバリューの浸透やメンタルヘルスケアのサポート、OKRをベースにした評価制度の構築、部門間交流を促進するシャッフルランチなどの施策を進めた結果、離職率を抑えながらも売上が3倍に。「こういうのが結構大事だったのかなと思いますね」と我妻氏は振り返ります。

またダイバーシティの推進にも熱心です。建設業界では一般的に男性比率が高めですが、同社では約170人の従業員のうち25%超が女性であり、多様性に乏しいという業界のイメージ刷新を牽引しています。

G(ガバナンス)の領域では取締役会と監査役会を設置。客観性と多様な視点を採り入れるため、取締役4名のうち2名は社外メンバーとしました。監査役は常勤1名のほか、非常勤として公認会計士と弁護士の資格を持つ人が1名ずつおり、コーポレートガバナンスの強化を図っています。

さらにスタートアップとしては珍しく、取締役と監査役に女性が1名ずついます。これはダイバーシティ実現に対する本気度の表れだと言えるでしょう。

Eの領域では創業時から契約書や請求書のペーパレス化を徹底するほか、従業員に職住近接を推奨し、オフィス最寄り駅より2駅圏内に住む従業員に家賃を補助。ほかにも現在MPowerのサポートを得ながらScope 1と2の算定に取り組んでいます。

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取り組みを伝えるために重要なのは、フレームワークという共通言語

これらの取り組みはESGのためにやったというより、これまで取り組んできたことをESGのフレームワークに沿って整理した結果だと我妻氏は話します。

「最初はフレームワークを参考にせず『なんとなくこれでいいだろう』と進めていたんですが、途中でそれじゃだめだと気づきました。というのも、どれだけよいことをやろうと、フレームワークに沿っていなければきちんと伝わらないからです。言語を合わせることが重要なんだと、実感しましたね」。

こうして改めて同社では、ISO26000、SDGs、SASBなどのフレームワークに沿って14のマテリアリティ(優先課題)を抽出。さらに現状やステークホルダーの期待値を踏まえて優先順位をつけ、取り組む施策を9個に絞り込んでいきました。その際に優先したのは「パフォーマンスにつながるかどうか」だったと我妻氏は話します。

「ビジョンやミッション、事業の核となる戦略とESGがどれだけつながっているかを重視した結果、必然的にSが多くなったんです。一方でEはすごく大事というわけではないのですが、リスクの排除という観点で考えたら適切にやるべきだと考えました」。

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ESGの実践で助太刀の社会的意義が伝わり、企業の信頼度が向上

サステナビリティサイトを公開すると、その反響は予想を上回りました。建設業界のスタートアップによるESGの取り組み自体が珍しかったということもあり、新聞やテレビ等のメディアに多数取り上げられたほか、株主やほかのスタートアップからの反応があったそうです。

特に我妻氏が注目するのが他社との提携交渉時の効果です。大企業とのアライアンス交渉の際にESGの取り組みを共有すると、評価や信頼を得られやすいと実感しているそうです。

ほかにも人材確保の面によい影響が表れています。

「ESGの取り組みについてメディアで取り上げられた内容を社内総会で共有すると、従業員がそれを家族などに見せているようです。『ESGをやっている企業』という点に誇りを持ってくれているんですね。それだけでなく、ESGに共感した人材が集まるなど採用面でもプラスの影響が生まれています」。

ここまで大きな効果を生んでいる助太刀のESGジャーニーですが、その担当者は執行役員の大塚氏と、社長室のメンバー1人の2名だけ。我妻氏は「リソースはそんなに必要ではなかった」と振り返ります。

「できない理由としてよくリソース不足が挙げられますが、やってみると今の2名体制でも十分でした。大事なのは、トップと話せる担当者がいること、そしてMPowerのようなサポーターの存在ではないでしょうか」。

担当役員の大塚氏も「ESGに対して身構える必要はない」と話します。

「ESGは難しいイメージがあると思うのですが、どんな企業も存在意義をつきつめていくとESG、そして持続的な成長につながっていきます。それをしっかり言語化してフレームワークに落とし込めばそれがESGの実践です。そうすれば社内外に伝わりやすくなり、人材確保などにつながっていくと思います」

株式会社助太刀 執行役員CCO 大塚裕太氏

助太刀のESGジャーニーは始まったばかり。今後は社会全体やステークホルダーに対して継続的に取り組みの進捗を伝えるべく、効果の定量化と可視化の準備を進めています。助太刀の取り組みについて詳しくは、こちらのページをご覧ください。

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