Startups × ESG イベントレポート:3社が語るESG実践のリアル
2022.10.18

2022年9月9日、MPower Partnersはイベント「Startups × ESG:国内スタートアップの現状と、国内外の先進事例に基づいたESGの取り組み意義/方法」を開催しました。参加者はオンライン・オフライン合計で約400人に上り、活発に質問が出るなどESGへの関心の高さが窺える機会となりました。

今回はそのイベントから、パネルディスカッションの内容をご紹介。ESGに取り組み始めたばかりのミツモア、ESGを実践して1年のWOVN、そして2018年からESGに取り組んできたメルカリという、ステージや課題が異なる3社がリアルな実践の中身を語りました。

登壇者:

  • 石川 彩子氏(株式会社ミツモア 創業者兼 代表取締役CEO)
  • 田原 純香氏(メルカリ Sustainability Teamマネージャー)
  • 藤原 健氏(Wovn Technologies株式会社 取締役CFO)
  • モデレーター:村上 由美子(MPower Partners ゼネラル・パートナー)

ESG実践の要はパーパスやミッションとのつながり

村上:ESGの実践でまずぶつかるのは、抽象的な概念を言語化して企業の文化や理念に反映させ、行動できるものに変える点だと思います。メルカリとWOVNではそこをどう噛み砕いてアクションにまで結びつけたのでしょうか?

田原:メルカリではESGを2つの目的のためのツールとして捉えています。

1つは、マネジメントのあり方、中長期の可能性、現状など当社が社会に提供する価値をグローバルに伝えるためのツール

もう1つは、ESGは会社の意思決定の質を上げるためのツールです。ESGの視点からマネジメントを振り返ることで、抜け穴に気づくだけでなく、経営に対するフィードバックも得られます。こうした取り組みのメリットを明確にしたことで、社内の認識を揃えやすくなりました。

といっても、すべてがスムーズに進んだわけではありません。特に難しかったのは温室効果ガス削減の取り組みです。そもそも算出自体に労力がかかりますし、石油や石炭を大量に使う大企業が行う方がよほど効果的。なぜメルカリがやらなければならないのかという議論になったんです。

その結論の拠りどころとなったのは企業としての存在意義、つまりパーパスです。メルカリが生まれたのは、創業者が新興国を訪れた経験から循環型社会を作りたいと考えたのがきっかけ。そんな会社なのに環境負荷に対して知らんぷりはできません。そこから取り組みを始め、今年はGHGプロトコルのScope 3の目標を掲げるところまできました。

藤原:WOVNでは、マテリアリティ(優先課題)を特定する前に「なぜESGに取り組むのか」を洗い出しました。特に早い段階でビジョンやミッションとESGとのつながりを整理し、ESGがビジネスの目的に直結するという共通認識を生み出したことでスムーズに進んだのではないかと思います。

特に力を入れているのは、ミッションに直結するDEI(多様性、公平性、包括性)です。といっても自社だけでできる範囲には限りがあるため、ユーザー企業やステークホルダーを巻き込み、ミッションに賛同してもらえるコミュニティを広げています。

村上:ミツモアはこれからのESGに取り組み始めるところですが、どんなアプローチを取る予定ですか?

石川:具体的にはこれからですが、自社のミッションやアイデンティティから離れた内容にしてしまうと破綻する気がしています。そのため、事業目標をきちんと追い続けることがESGにも直結する状態が望ましいと考えています。

またミツモア社内は女性の従業員や管理職の比率が高く、外国人も多い。そうした多様性もミツモアらしさの1つです。その「らしさ」の延長線上でESGの目標を追っていくことが必要だと感じています。

取り組みの定量化で、従業員がESGを「自分ごと化」

村上:会社の規模が大きくなると、従業員、特に中間層にとってなかなか「自分ごと」にならないのが課題だという声をよく聞きます。メルカリではどうでしょうか?

田原:まさにその通りでした。経営層が旗振り役として推進しても、日々現場で仕事を進める従業員はそれどころじゃない。そこで大事になるのはやはりパーパスです。従業員の間に、「会社が何のためにこの社会にいるのか」という点への共感を生み出すしかないんです。具体的には小さなワークショップなどを積み重ねました。

ただ中間層は事業のKPIに責任があるので手強い。そのため、数字をはじき出してメリット・デメリットを洗い出し、どの部分が一番気にかかるか聞いて、それをどう解消するか地道に話し合いました。

特にマテリアリティ(優先課題)のなかには事業と天秤にかけるものもあります。温室効果ガスの削減などはコストがかかるだけでなく、これまで付き合ってきたサプライヤーとの取引をどうするのかという話になる。それに対しては、取り組む理由、方法、考えられるリスクやメリデメを定量的に示してディスカッションを進めました。

パネルディスカッションの様子

多様性は目的ではなく、イノベーションを生む文化の一要素

村上:確かに定量化は難しいですが、よい効果も数字で表れています。たとえばミツモアでは経営層に女性が多いことで、人材確保の点でメリットを感じているのではないでしょうか?

石川:私自身はダイバーシティがESGだからやっているわけではなく、ミツモアの目指す世界を実現するために必要不可欠なものとして捉えています。採用難の今、能力があってミッションに共感してくれる人ならどんな人でも来てほしいのが本音。その結果、ジェンダー、国籍、前職、性格などの多様な人材が集まりました。多様性があると同調圧力がないため激論を交わしやすく、闊達な文化が生まれやすい。それこそ、ミツモアの成長に欠かせないものです。

村上:多様性や女性比率を目的化しないのはとても大事なポイントですね。女性が増えたからと言ってイノベーションが起こるわけではない。意見が異なってもOKという風土があることで、予想もしてなかったアイデアが生まれたり、ビジネスチャンスが見えてくるのでしょう。

ESG実践の第一歩は、取り組む意義の整理&情報収集

村上:WOVNから、これからESGに取り組み始めるスタートアップへのアドバイスはありますか?

藤原:リソース配分などを考えるとESGは後回しになりがちですが、スモールスタートでも意外と進みます。その際、地道に1つ1つ自分たちで考えていくことが大切です。他社の真似をしても一定の形はできますが、それだとあまり意味がない。ESGを義務のように捉えず、事業にとっての意味を整理したうえで取り組むと、メンバーのエンゲージメントが高まるだけでなく、事業の成長ドライブにもなります。そうすれば、スタートアップにとって意義の大きい取り組みになるのではないでしょうか。

村上:メルカリから、上場を意識しているスタートアップへのアドバイスもお願いします。

田原:ESGを実践すれば、資金調達面でのメリットが大きいと思います。投資家がどんな視点で企業を評価しているのかをしっかり把握し、その人たちが価値だと思うことを徹底的に知ってください。実際に私は投資家にアポを取ってヒアリングしたり、集めた情報をスプレッドシートに整理したりするうちに、投資家の視点で色んなことが見えてきました。これは経営の質を高める作業になるのでおすすめです。

村上:MPowerがまとめたESG Playbookでも、ESG実践を評価するためのさまざまなフレームワークを紹介しているのでぜひ参考にしてください。皆さん、本日はありがとうございました!