経済の強力なエンジンに スタートアップを考える
2024.11.06 Yumiko Murakami

スタートアップとは創業後、間もない企業を指す。2022年に岸田文雄前政権は経済政策として「スタートアップ育成5カ年計画」を策定し、注力した。政府は育成に向けて過去最大規模の1兆円の予算措置を講じ、日本発のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の非上場企業)を、6社から将来的に100社に増やす目標も掲げた。

石破茂政権は5カ年計画を継承していく意向を示したものの、具体的な政策はこれからだ。石破首相が長年唱えてきた地方創生やデフレ経済からの脱却を確実に具現化していくためにも、スタートアップへの支援の手を緩めてはならない。

地方でも育成を

スタートアップは革新的な技術やサービスを生み出して市場を開拓し、急速な成長を目指す。経済産業省によると、その国内総生産(GDP)創出効果は約19兆4千億円(間接的な波及効果を含む)と、北海道や福岡県の総生産と同等の規模に上る。

雇用52万人、所得約3兆2千億円の創出効果もあると推定され、日本経済成長の強力なエンジンになりうることが分かった。

起業家や大企業、資金の出し手、大学、政府が連携し、継続的に新興企業を生むスタートアップエコシステムは、必ずしも首都圏のみで発達するわけではない。地方においても育成は十分可能であり、実際、米国では地方都市を中心にシステムの構築が著しい。

地方でシステムを形成する場合、自治体や大学が果たす役割は重要である。特に地方にはゾンビ企業と呼ばれる成長性の乏しい中小企業が少なくない。

こうした衰退企業の延命を図る助成金ではなく、革新的なビジネスを展開し、収益と雇用を創出しようとする企業にリスクマネー(回収不能になる危険を覚悟の上で当該企業の将来性を評価し、提供する資金)が流れる仕組みが必要だ。

大学や高校でアントレプレナーシップ(起業家精神)に関する教育を導入し、若者の起業への興味を喚起すると同時に、地方自治体が中心となって中高年齢層にもリスキリング(学び直し)の機会を提供することで、人材プールを拡充すべきである。

スタートアップに対して、起業家に伴走する民間のアクセラレーターと大学が支援し、地方銀行やベンチャーキャピタル、事業会社が投資する仕組みを確立していくことも求められる。

地方における少子高齢化は特に顕著であるが、この点でもスタートアップの役割に大きく期待したい。テクノロジーの発展を通じて経済全体のデジタル化が進行する局面では、テクノロジーと協働する人々の労働生産性が飛躍的に伸びる可能性が内在する。

既成概念と無縁

特にデジタル化が浸透した経済圏におけるスタートアップの健闘は目覚ましい。先端技術と革新的なビジネスモデルを駆使して、少子高齢化や労働者不足、自然災害、環境問題といった社会的課題の解決に取り組むスタートアップが急増している。

既成概念に縛られず、日本社会のピンチをチャンスと考えることが得意なのがスタートアップの特徴でもある。

起業に関するデータを見ると、スタートアップの活況が読み取れる。政府の「起業家精神に関する調査」で、起業活動を示す指数は13年に3.7だったのが、23年には6.1へ改善した。

日本政策金融公庫総合研究所が昨年実施した調査によると、開業後仕事にやりがいがある、と満足している人は80%強にも達している。開業者に占める女性の割合は約25%と、13年の約1.6倍にまで伸びた。

それでも日本のスタートアップへの投資額は1兆円未満にとどまっており、27年度に10兆円規模を目指す政府のゴールは遠い。投資額の対GDP比は0.03%程度と、米国(0.4%程度)の10分の1にも満たない。

日本経済を活性化し、成長を加速させていくために、石破政権は投資額の少なさを伸びしろがあると捉え直して、スタートアップ育成に向け真摯(しんし)に取り組むように期待したい。

💡関連記事:伝統的な家族主義脱却を 少子化と男女格差を考える