「リケジョ」の活躍促せ 賃金格差の是正に貢献 
2024.04.24 Yumiko Murakami

※この記事の内容は、弊社ゼネラル・パートナーの村上由美子が共同通信社に寄稿したものです。

日本の女性就業率は過去10年で大幅に上昇し、米国や多くの欧州諸国よりも高い水準に達している。しかし、管理職などリーダー的な立場にある女性の比率は依然として低い。ジェンダーの格差は解消されておらず、その平等の実現が大きな課題であることに変わりはない。

切磋琢磨

2020年にノーベル化学賞を受賞した米国生まれの女性ジェニファー・ダウドナ博士が今年3月に来日した。学生や研究者、経済界のリーダーを対象に開かれた講演会で、受賞理由になったゲノム(全遺伝情報)編集の新しい手法「クリスパー・キャス9」の開発の経緯や、生命科学に革命的なインパクトを与えると期待される新手法の可能性について、熱弁を振るった。

共同研究者として賞を分け合ったフランス生まれのエマニュエル・シャルパンティエ博士をはじめ、ダウドナ博士の人生の転機となった複数の女性研究者との出会いにまつわるエピソードも紹介された。

米国の大学でも科学技術分野における女性研究者は少数派である。ダウドナ博士も、目標にしたいと考えるロールモデルを周囲に見つけるのは困難だった。若い頃は「女性だから評価された」と思われたくなく、あえて女同士のネットワークから距離を置いていた時期もあったという。

キャリアパスへの自信を深めるきっかけになったのは、他の女性研究者との交流だった。マイノリティーとして似たような状況に置かれた者同士で切磋琢磨(せっさたくま)することが、自身を含む多くの女性にとって強力な刺激や動機づけになるのを実感したからだ。近年はSTEM(科学・技術・工学・数学)分野への女性進出を精力的に支援している。

日本の経済関連分野への女性進出は諸外国に大きく後れを取っているが、特に科学技術分野における問題は深刻である。経済協力開発機構(OECD)によると、日本でSTEMを専攻する大学生は男性の36%に対し女性は7%にとどまり、男性が女性の約5倍に上った。

OECD諸国でも多くの男性が女性よりSTEMを選択する傾向はあるが、比率は2倍から3倍程度だ。STEM関連の職業は通常、賃金が高いため、この分野への女性進出は男女賃金格差の是正にも貢献しよう。

日本における賃金格差はOECD加盟国の中で最悪レベルにあり、女性の経済的自立を妨げるなどといった社会問題の原因となっている。解決の鍵の1つが理系分野で活躍する女性「リケジョ」を増やすことかもしれない。

意識改革

STEM分野への女性の低進出率が経済全体に及ぼす影響も考えてみたい。国際通貨基金(IMF)は「(女性進出の)障壁を取り除くことで日本の生産性の伸びが20%加速する」と分析している。

ほぼ全ての産業でテクノロジーとの協働が必須となっている今日、より多くのリケジョの活躍は国内総生産(GDP)の底上げに直結するだけではない。イノベーション(技術革新)の促進には多様な価値観の共存が必要とされ、この点でも男女が共に労働市場に参画することによる好影響が期待できる。

米国生まれの女性クラウディア・ゴールディン博士は男女の賃金格差に関する研究で、23年のノーベル経済学賞を受賞した。同博士の研究によると格差の主因は女性の出産であり、その底流には育児や家事は母親の役割であるべきだという伝統的な価値観がある。

父親が自主的に育児や家事に取り組み、家庭内で母親にかかる負荷を軽減し、いわゆる「ワンオペ」現象を解消することが重要だとしている。

働きながら子育てをしている女性が昇進しにくいといった不利益を被るマザーズペナルティー(母親のペナルティー)が特に厳しい日本では、出産かキャリアの二者択一を迫られるケースが多いのが問題だ。

人手不足が深刻化する中で、就労意欲を持つ女性がいきいきと働ける環境が以前にも増して求められている。職場だけでなく家庭を含む社会全体で男女共に意識改革を進め、こうした環境を整備していかなければ、日本の未来は大変厳しいものになる。肝に銘じてしかるべきだ。