Jupiter IntelligenceのCEOに聞く、ビジネスにおけるESGの意義
2022.11.14

企業の成長にとって、ESGの実践はもはや欠かせません。とはいえその具体的なメリットや効果的な実践方法となると、なかなかイメージできない人が多いのではないでしょうか。

そこで今回は、MPower Partnersの投資先の1社であるJupiter Intelligenceの取り組みを紹介します。

カリフォルニアを拠点とするJupiterは、気候変動の影響を可視化して顧客に最適な提案を行う企業です。自社で開発する次世代の気候リスク解析システムを用いて、気候変動が引き起こすリスクを短期・中長期的に予測するだけでなく、金融機関から公共セクターまで幅広い業界にデータやアナリティクスサービスを提供し、顧客が十分な情報に基づく決定を行えるようサポートしています。

そんなJupiterの土台にあるのが、ESGの要素です。同社はこれまでDEI(多様性、公平性、包括性)、環境問題、ESG目標とビジネス目標の整合性などのトピックをグローバルに発信して存在感を強め、さまざまなESGの取り組みを社内外でリードしてきました。今回はその具体例や得られるメリット、そして実践の鍵について、同社のCEOであるRich Sorkin氏に聞きました。

あらゆる面でDEIを重視し、人材の多様化を実現

JupiterではESGのなかでもDEIを最も重視し、3年ほど前からその強化に力を入れてきました。実際に、社内ではあらゆる面で、多様な背景や視点、自己実現、ジェンダーアイデンティティ、そして多様性に寛容な姿勢を重視し、インクルーシブな職場の構築を目指しています。

その取り組みを支えているのが、Sorkin氏の信念です。「あらゆる背景を持つ多様な人材がJupiterのチームを強くする。私はそう強く信じているんです」。

2021年には従業員の多様化が大きく進み、それは2022年の今も続いています。人材採用のプロセスを例に挙げると、まず全職種の面接に女性やマイノリティの面接官を含めるようになりました。

また、多様な候補者に接触できるよう新たな採用チャネルを設けただけでなく、人材サーチ会社に対しても候補者の多様性を強く求めています。「その結果、従業員だけでなく管理職や取締役会にも、これまで活躍の機会が少なかったマイノリティや女性が増えました」と、Sorkin氏はその成果を語ります。

さらに同社はウェブサイト上でDEIコミットメント・ステートメントを公表しているほか、コアバリューもDEIで重視するポイントやESG目標に沿ったものになるよう、まもなく刷新する予定です。

気候変動の影響に苦しむ地域へのサポートを拡大

気候分野でビジネスを行うJupiterでは、当然ながらESGの「E」も重視しています。同社は顧客に対して科学的な専門知識を提供するだけでなく、気候変動の影響と闘ううえで効果的な提言を行うなど、重要な社外オピニオンパートナーであり続けてきました。その活動は同社のウェブサイトに掲載されているほか、Forbesでも取り上げられています。

特に力を入れているのが「Jupiter Promise」です。これは、気候変動の影響を大きく受けつつも十分なサポートを得られていない国や地域に対して、Jupiterのサービスの大半あるいはすべてを無償で提供するプログラムです。その第1弾として、同社はコロンビアのThe Nature Conservancy(自然保護の非営利団体)との共同プロジェクトを実施しました。

Sorkin氏はJupiter Promiseについて「JupiterのESG施策における重要な側面であり、誇りに思う」と話します。今後もビジネスの拡大とともにJupiter Promiseをグローバルに展開し、2023年末までにさらに20以上のNGOと提携して世界人口の20%以上にリーチすることを目指しているそうです。

さらに同社は、2020年の気候野心サミットで発足した「Race to Resilience」にも参加しています。これは2030年までに気候変動リスクにさらされた40億人の暮らしを守ることを目指すキャンペーンです。

Sorkin氏によると、こうした取り組みは「すべて自分たちが重視すると決めたこと」だといいます。「それが投資家の目を引いた結果、体系的にますます注目されているのでしょう」。

ESGのメリットは投資家へのリターンに匹敵

こうしたESGの取り組みは、実際にビジネスにおいてどんな効果があるのでしょうか。Sorkin氏は、「JupiterにとってESGから得られるメリットは、事業成長やパフォーマンス、ひいては投資家へのリターンと同じくらい意味がある」と説明します。

「そもそも、Jupiterのプロジェクトや取り組みを支持してもらうには、ESGが土台になければなりません。方針やプロセスを築くのも、それらをビジネスの成長に合わせて拡張するのも、その土台のうえで行うことです。だからこそ私たちはESGを最優先事項とするのです」。

さらにSorkin氏は、ESGはそれ自体に実践する価値があり、そのメリットはビジネスと文化の両面に及ぶと指摘します。「たとえばDEIを実践すれば、集団思考を避けられるうえ、多様な人間関係を築くことができます。これはDEIなしには実現できません」。

そうしたメリットは社内だけでなく、顧客、株主、役員、地域社会、さらには政府や公共政策立案者などの社外にも広げられるといいます。実際にJupiterは、ESGの推進に力を入れる多くのトップ企業と提携しており、その範囲はアメリカ国内にとどまりません。

「従業員にとってESGの取り組みが非常に重要であるのは明らかです。一方、顧客もまた取引相手にESGの実践を期待しています。だからこそ私たちは従業員と顧客の両方に、自分たちの声が届いていること、そしてJupiterの経営層にとってもESGが重要だということをわかってもらえるようにしたいのです」。

社内の重要なDEI目標、ガバナンスの強化、さまざまな科学分野での環境リーダーシップを進める際には、データや指標を活用しています。目標に対して正しい測定基準を運用すれば、プロセスを管理しやすくなるだけでなく、進めている内容が正しいか常にチェックできるようになるからです。

「もちろん、すべてを正しくやろうとするとなかなか骨が折れますが、そこまでできなくてもメリットはあります。始めるのは早ければ早いほどよいでしょう」。

ESG実践の鍵は部門横断で上下から進めること

最後にESG実践を成功させる鍵として、Sorkin氏は「社内のあらゆる階層を網羅しながら、トップダウンとボトムアップのプロセスを同時に進めることが欠かせない」と話します。実際に同社では、さまざまな視点から議論や意見交換ができるよう部門を横断する体制を取り、多くのステークホルダーを巻き込みながらESGを実践・強化しているそうです。

Jupiterでは引き続きESGを実践するために、学びと試行錯誤を繰り返しながらESG目標に沿った価値を株主に提供していく予定です。「当社のESGの取り組みはこれからも柔軟に進化し続けます。それによって支持を集めつつ、ビジネスの目標や成長に合わせてうまく方向転換もできるでしょう」。