ESGのアクションと進捗測定方法を決める際に押さえたいポイント
2022.08.09 Kathy Matsui, Yumiko Murakami, Miwa Seki, and Yuna Sakuma Playbook

マテリアリティ分析の5つのステップの詳細を理解したところで、次はこれらを具体的なアクションに落とし込み、その進捗測定方法を決める段階に進みましょう。

今回は「アクション(行動計画)を決定する」と「目標とメトリクス(測定指標)を設定する」です。

アクション(行動計画)を決定する

それぞれの優先課題に取り組むための具体的なアクション(行動計画)を洗い出すポイントは5つあります。

  1. 自社の重点分野に沿ったアクションを選びます。企業のミッションやビジネスモデルに沿うアクションを実践すれば大きなビジネスインパクトが見込めるため、「やらないよりまし」程度の結果に終わることはありません。
  2. 量より質で勝負。実行可能な範囲で、自社とステークホルダーが最大級の効果を得られるアクションを2~3個絞りましょう。各アクションをより実行しやすくなり、成功がぐっと近づきます。
  3. アクションは測定可能なものにしましょう。進捗を数値で測ること、そしてその進捗管理の責任者を決めることも重要です。
  4. テクノロジー業界以外にも目を向けると、新たなアイデアやインスピレーションを得られるかもしれません。同業他社の取り組みを知るのも大切ですが、ほかの業界や業種、市場にまで視野を広げてみましょう。
  5. 定期的に進捗を確認します。ロードマップを作成して進捗確認スケジュールを立てたら、それに沿ってステークホルダーに最新状況を報告しましょう。ステークホルダーごとに求めるコミュニケーション方法が異なることもお忘れなく。

目標を設定する

アクションに落とし込んだら、その進捗状況を測る方法を決めるのも大切です。この段階では、まず目標を設定してから、その達成状況を測るメトリクスを決定します。

目標は根拠に基づき強気に設定

多くの場合、目指すべき明確なゴールがあればメトリクスも見えてきます。

目標は、達成可能な範囲で強気なものに設定しましょう。その際に大切なのが、グローバルなベストプラクティスなどの明確な根拠をもとにすること。たとえば、DEIに取り組む場合のアクションと目標は次のようになります。

マテリアリティ(優先課題)アクション目標
DEI(多様性、公平性、包括性)自社のバリュー、ガバナンス、
事業運営にDEIを組み込む
2025年までに取締役の30%を女性に(根拠:30% Club campaign)

ほかにも目標の例としては、次のようなものがあります。(このうちの何が実現可能かは、企業の場所や事業内容によって異なります)。

メトリクス(測定指標)は測定のしやすさが鍵

目標を設定すると、多くの経営者はその達成状況に神経を尖らせます。しかし私たちMPowerでは、目標達成そのものよりも、到達状況を測ることの方が大切だと考えています。特にESGを実践し始めたばかりの段階ではなおさらです。そのため、目標を必達としない場合でも進捗を測るメトリクスを明確にしておきましょう。

メトリクスは必ずしも定量的である必要はありません。むしろ定量化できない場合の方が多いかもしれませんが、ESGのロードマップ全体で定量的な指標と定性的な指標が交ざっているのは健全な状態です。

長期的に見る必要があるメトリクスは、測定のしやすさが鍵になります。そのためには、次のポイントを押さえておきましょう。

  • 各メトリクスを測定するうえでどんなデータが必要なのかを洗い出し、可能であれば最も手に入れやすいデータを活用する
  • 必要なデータに対して定期的にアクセスしやすいプロセスを作る
  • メトリクスとそのデータを収集・管理する担当者を決める

投資家の観点から、少なくとも年1回のペースで測定すべきメトリクスは次のとおりです。

DEI

次の項目に占める割合を測定します。日本企業が最低限測るべきは女性比率と外国人比率、日本以外の企業は女性比率とエスニックマイノリティ比率です。また国や地域、事業内容などによっては、障がい者やジェンダーマイノリティの比率などほかの要素も考慮する必要があるでしょう。

  • 従業員数
  • 管理職
  • 経営層
  • 取締役会
  • アドバイザリーボード

温室効果ガス排出量

自社だけでなく、自社の事業に関連するサプライチェーン全体の排出量を測定します。環境省のページもぜひ参考にしてください。

  • 自社の活動による温室効果ガスの直接排出量
  • 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出量
  • 自社の活動に関連する他社による排出量

従業員エンゲージメント

次の項目を通して、従業員エンゲージメントを測ります。従業員50人以上の規模の企業では、定期的に従業員エンゲージメント調査を実施するのがおすすめです。

  • 離職率
  • 新規採用者

ここまで終わったら、ついにESGのロードマップは完成です。次の記事ではESGを実践していくうえで、社内外とのコミュニケーションをスムーズに進めるコツを紹介します。