伝統的な家族主義脱却を 少子化と男女格差を考える
2024.07.30 Yumiko Murakami

※この記事の内容は、弊社ゼネラル・パートナーの村上由美子が共同通信社に寄稿したものです。

少子化が加速している。2023年の日本の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産む子どもの推定人数)は1.20に低下し、過去最低を更新した。東京の出生率も最低となった。少子化の進行による労働人口の減少は、日本社会の至る所でゆがみを生み始めた。働き手の確保が困難な企業は事業縮小を、後継者不在の場合は廃業を強いられ、深刻な経済問題に発展している。

解決のめど立たず

今のままだと日本社会は60年までに、働く人よりも支えられる人が多くなると予想される。高齢化で医療や介護の需要は高まるが、財源となる税金や社会保険料を納める年齢層が減るため、必要な社会保障制度の維持が困難になりかねない。

政府は長年多くの少子化対策を講じてきた。15年に「希望出生率1.8」を目標に掲げ、児童手当を含む経済的支援や保育施設増強などの育児支援を拡充してきた。

最近では岸田文雄首相が「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明し、23年12月に「こども未来戦略」を閣議決定した。30年に入るまでの数年間が、少子化傾向反転のラストチャンスだとし、この3年間、集中的に対策を遂行する計画だ。

深刻な社会問題として長い間認識されながら、いまだに解決の見通しが立っていないもう一つの懸案が男女格差である。

スイスのシンクタンク、世界経済フォーラムがまとめた、各国の男女平等度を順位付けした24年版「男女格差(ジェンダー・ギャップ)報告」で、日本は146カ国中118位にとどまった。先進7カ国(G7)で依然最下位にあるだけでなく、多くの開発途上国より劣る最低層の常連国になってしまった。

日本は教育と健康の分野では中位だが、政治と経済の分野のランキングが極端に低く、総合評価が悪い状態が十数年続いている。企業の管理職や国会議員など意思決定に携わる立場にいる女性が少ないことが主因だ。

日本政府はジェンダー平等に向けた取り組みを長年続けている。1985年に「男女雇用機会均等法」を、2015年には「女性活躍推進法」を成立させた。

しかし、せっかく法律を作っても女性の活躍を巡る厳しい状況は改善せず、議会の議席や企業管理職の一定数を女性に割り当てるクオータ制など即効性のある政策を導入した諸外国に大きく後れを取っている。あまりにも進展が遅いため、日本全体が諦めモードに陥るのではないかと懸念する声も聞かれる。

残り時間少なく

少子化と男女格差。日本が直面する二つの大きな問題の関係性は、以前から指摘されてきた。ジェンダー・ギャップの順位と合計特殊出生率には正の相関関係が見られ、特に経済面でジェンダー平等が進んでいる国は出生率が高い傾向にある。

少子化と男女格差の両方に影響を与える制度や政策、人々の意識、慣行を勘案しつつ、少子化とジェンダー平等の遅れの双方に共通する要因を分析する必要がある。

要因の一つは伝統的な「家族主義」から脱却できない社会ではないだろうか。日本の政策は稼ぎ頭の父親と家事育児を担う母親を想定した家庭を前提に立案されることが多い。専業主婦への税制上の優遇がいまだに是正されていないのは、母親の就業はあくまでも家計の補助者としてパート労働にとどめるべきだとする家族主義の表れと考える。

女性活躍推進法の導入後、女性の就業率は上昇傾向にあり、今では多くの欧米諸国を上回る。半面、男女の賃金格差はほとんど是正されていない。家事、育児の負担を担いながら働く女性にとって意思決定に携わる立場に就くのが困難なことは想像に難くない。

仕事か子供か。実質的に二者択一を迫られる女性が少なくないという現実を、私たちは直視する必要がある。

経済協力開発機構(OECD)が各国の出生動向を分析した報告書によると、1975年生まれの女性のうち日本は子どもがいない割合が28%と、OECD加盟国の中で最も高かった。

さまざまな理由で子供を持たない人が増えているが、伝統的な家族主義の枠組みが残ったまま、少子化と男女格差の現状を打破するのは無理だろう。日本に残された時間は少なく、この枠組みを早急に見直す必要がある。