2023年10月11~12日に開催されたMOMENT2023。このスタートアップイベントで特に目を引いたのは、世界的に活躍する女性起業家たちの存在です。
スタートアップやベンチャーキャピタルの多様性促進に力を入れるMPower Partners Fundは、そんな女性起業家たちを招いてパネルディスカッションイベント「Diverse Founders & VC Happy Hour」を企画。当日は会場にはたくさんの参加者が集まり、グローバルな4人の起業家の言葉に熱心に耳を傾けていました。パネルディスカッション後は質疑応答が活発に行われただけでなく、ネットワーキングの時間には参加者同士が積極的に交流。新たなつながりや刺激を得る有意義な時間となりました。
今回は、イベントで女性起業家たちが語った内容をダイジェスト版でお届けします。起業のきっかけや大変だったこと、昔の自分へのアドバイス、さらに質疑応答の内容もいくつかピックアップして収めました。
登壇した4人の女性起業家たち
Katrina Lake(Stich Fix 創業者兼会長)
オンラインのパーソナルショッピングサービス大手Stitch Fixの創業者で元CEO。MBAの学生だった2011年、マサチューセッツ州ケンブリッジにあるアパートの一室でデータサイエンスと人間のスタイリストを組み合わせて顧客それぞれに合った洋服を自宅に届けるサービスを開始。2017年、34歳でNASDAQに上場を果たす。当時NASDAQ史上最年少で上場した女性CEOとなった。
Stina Ehrensvard(Yubico CEO)
Yubicoの共同創業者であり、Yubikeyという強固な認証鍵を発明した起業家。Yubikeyはウェブサイトやコンピュータにログインする際に従来より一段上のセキュリティを保証する物理的な鍵。現在、Yubikeyは世界中の10万を超える企業で使われているばかりか、トップ10インターネット企業のうち8社で採用され、150か国の数百万ユーザーに利用されている。Yubicoは2023年9月にスウェーデンで上場を果たした。
Konstantina Psoma(Kaedim CEO)
AIを使って2D画像をデジタルな3Dモデルに転換する研究を手掛け、Kaedimを創業。NetflixやVoodooなど200社を超えるゲーム制作会社を顧客とし、3Dアセットの作成を引き受けている。Kaedimはゲーム領域ではa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)を含むトップティアの投資家からの資金調達に成功。現在はロンドンとサンフランシスコに拠点を置き、30人の体制でビジネスを拡大中。
Sabrina Soewatdy(Rukita CEO)
インドネシアの不動産テクノロジー企業であるRukitaの共同創業者兼CEO。良質な住宅の不足がインドネシアの国家的な課題となるなか、Rukitaはすべての人に良質な住居を提供することをミッションに、学生や若いプロフェッショナル向けにコ・リビングと呼ばれる短期の賃貸住宅を展開。ジャカルタにおいて3500室を超える賃貸住宅を運営し、テクノロジーを通してテナントと家主の両方に幸福な生活体験を届けている。自身が元建築家という背景から不動産業界への深い知見を持ち、Rukitaを通してインドネシアの新たな社会インフラ構築に情熱を注ぐ。
左より、キャシー松井、 Konstantina Psomaさん、Stina Ehrensvardさん、Sabrina Soewatdyさん、Katrina Lakeさん、村上由美子、関美和
豪華パネリストが語る起業のきっかけ、過去の困難とアドバイス
MPowerのキャシー松井がモデレーターを務めた今回のセッションでは、パネリストの皆さんに3つの質問を投げかけました。
- 起業のきっかけは?
- これまでで一番大変だったことは何ですか?それをどう乗り越えましたか?
- 若い頃の自分にアドバイスするとしたら、何を教えてあげたいですか?
1.起業のきっかけ
Konstantina:学生の頃にあるゲーム開発企業と出合ったのですが、そこでは2Dイメージを3Dモデルに変換する作業がすべてアナログでした。それでより効率的なやり方があるのではないかと考え、機械学習を利用して数分以内に2Dイメージを3Dモデルに生成できる方法を開発したんです。それが起業のきっかけです。
Stina:私は家庭の主婦をしていたときに、銀行口座のセキュリティに不安を持ったんです。インターネット時代のセキュリティはまだ脆弱。自動車時代に安全規制がない状態に似ていると思います。この問題を解決しなければ大変なことになると思いました。逆にこの問題が解決できれば巨大なビジネスになると考えたのです。
Sabrina:私はもともと建築家だったのですが、もっと構造的かつ大きな社会問題に取り組みたいと思っていたところでした。ちょうど妹も同じことを考えていた時期で、思い切って起業しました。
Katrina:私の場合、アメリカではショッピングがうまく機能していないと感じていたのがきっかけです。 Eコマースはまだ理想的な買い物方法とは言えず、実店舗も物足りなかったんです。そこで百貨店が富裕層の顧客に提供していた「パーソナル・ショッピング」サービスに誰でも安くアクセスできるプラットフォームを考えました。
2.一番大変だったこと
Konstantina:共同創業者が辞めたことですね。最初はビジョンに共感してくれて一緒に起業したのですが、実行段階でさまざまな相違点があり、結局その人が辞めて1人になってしまいました。若い女性創業者として資金調達や顧客開拓はかなり大変でしたし、苦労しました。
Stina:家族を説得して一緒にアメリカに移住したことです。会社をグローバル展開するためどうしてもアメリカでの挑戦が必要だったのですが、同じ頃夫がストックホルムの静かな郊外で新しい家を見つけたんです。そこで妥協案として、私は「カリフォルニアで1年間だけ過ごして、もし事業がうまく行かなかった場合、スウエーデンの家に戻ると約束する。だから一度だけチャンスがほしい」と説得しました。幸いビジネスが成功し、結局そのままアメリカに住んでいます。
Sabrina:起業してすぐにコロナ禍が始まりました。当時、シンガポールにいた創業者チームがインドネシアに入国できなくなったり、母国から出国できなくなったりと、大きな問題に直面したんです。移動制限がいつまで続くのかが不透明ななか、ビジネスモデルを修正する必要も出てきて、創業当時の想定を大幅に変更しなければなりませんでした。さらにそんな状況で共同創業者が辞任することになり、私たち姉妹2人が中心となって会社を率いることになりました。
Katrina:事業成長に追いつくこと、資金調達などすべてが大変でしたが、そうした経験を通して自分がより強くなったと思います。
3.若い頃の自分へのアドバイス
Konstantina:まず動くこと。恐れずにコンフォートゾーンから飛び出すこと。何があっても諦めないこと。そしてみんなのアドバイスをすべて聞き入れる必要はありません。自分で最善と思う判断を下してほしいと思います。
Stina:大胆に。そして親切にと言いたいです。相手の立場に立ったコミュニケーションを大切にしてほしい。予期しない事態は必ず起こるものです。でも常に闘う必要はありません。競争よりもコラボレーションを優先させて。ピンチはチャンスと心得ましょう。反感を共感に変えることが大切です。
Sabrina:自分の直感を大切にしてほしいと思います。あなたの存在には必ず意味があるはずです。自分を信じてほしい。
Katrina:従業員や投資家や周囲のあれやこれやに振り回されすぎないでと言いたいですね。自分を見失わないためには少し自分勝手になることも大切です。自分のウェルネスにも気を遣ってください。そして恥ずかしがらずに、誰かに助けを求めていいと教えてあげたいです。気軽に声をかけていいんです。喜んで助けてくれる人はあなたの周りに大勢いますよ」
採用の悩み、女性起業家のチャンス、スケール方法に真摯に回答
ここからは、パネルディスカッション後に行われた質疑応答から3つ選んで紹介します。
質問「人材の採用が悩み。優秀だと思って雇っても、すぐにダメだとわかることも。どうしたらいいか?」
Konstantina:新しく採用した人とは自分が直接密に働いてみるようにしています。短期の試用期間を設けてもいます。履歴書が立派でも仕事に適しているとは限りません。若くて貪欲な方がいい場合もありますからね。
Sabrina:ケースワークをやってみるのも有効だと思います。6か月間試験的に一緒にやってみるとか。
Katrina:Cレベルの人材を探していたとき、尊敬するエグゼクティブに相談してみました。その人はアドバイスをくれるだけでなく、一緒に手を動かしてもくれました。しばらくそうやっているうちにあちらから一緒に働きたいと言ってくれたんです。自分たちのファンになってもらって、入社してもらいました。
質問「日本で女性起業家としてのチャンスはどこにある?困難な点は?」
Katrina:ほかの国に比べて前例が少ないので、難しい点は多いと思います。文化的にも、母親の負担は大きいですからね。でも日本も変わりはじめている。日本の人材は本当に優秀です。女性のチャンスは大きいと思います。これから切り開いていけるはずです。
Stina:今回の来日で、日本は変わりつつあると感じました。トップから変化への政治的意思がありますよね。スタートアップへの支援も増加していますし。
Konstantina:やりたいという意思さえあれば、誰もあなたを止めることはできません。大丈夫です。
Sabrina:東南アジアも同じような状況ですね。
質問「ビジネスをどうスケールするか?いつスケールするか?」
Katrina:スケールのタイミングは自分たちではなく、顧客が決めることです。私たちも急激な成長に追いつくのは大変でした。まずはPMFが一番。顧客が欲しいものを作れば自然にスケールするはずです。
Stina:グローバルな顧客がこのプロダクトを欲しいと言ったときがスケールのタイミングです。ただ製造業ではデマンドに合わせてものを作るのは大変です。製造がすぐには追いつきませんからね。私たちの場合はGoogleに採用されたときがスケール時期でした。
Sabrina:私たちは創業当初からスケーラブルなサービスを狙っていました。人口から見ても、インフラから見ても、マクロな需要が大きいのはわかっていましたから。
Konstantina:組織としてはAIによる自動化が拡大の鍵です。プロダクト的には顧客が求めるものを作って、PMFできたらその波に乗ることが大切です。
質疑応答のあと、参加者や登壇者が活発にネットワーキングを行う様子
MPowerでは、今後もスタートアップやVCの多様性促進の取り組みを積極的に進める予定です。なお、今回のイベントに参加された方は、短いアンケート回答にご協力お願いいたします!回答はこちらから
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