「ChatGPTとESG」シリーズ、パート3の今回は、生成AIをめぐる考察の締めくくりとして、この強力なテクノロジーが日本でどんな可能性を開くのか掘り下げていきます。「パート1:熱狂の先にある生成AIの倫理的・環境的影響とは?」「パート2:各業界の活用事例から見る生成AIの可能性」をまだ読んでいない人は、ぜひ順番にどうぞ。
夜の渋谷スクランブル交差点 (出典:Unsplash Jezael Melgoza)
日本は伝統とテクノロジーを組み合わせることで知られており、生成AIの活用に関しても独自の立ち位置にいます。製造業の強い基盤を備えつつテクノロジーの発展に力を入れるこの国で、生成AIが各業界のイノベーションをどう加速させるのか見ていきましょう。
昔ながらの産業を変革
生成AIは、日本の製造業に革命をもたらす存在です。製造業が生成デザインを採用すれば、生成AIによって最適な設計案がすばやく生成されるため、効率アップとイノベーションにつながりるでしょう[1]。三菱電機などの企業はすでに製造工程にAIを組み込んでおり、この変革を牽引しています [2]。
こうしたシフトは製造業にとどまりません。昔ながらの方法と最新テクノロジーが融合した農業分野では、生成AIが大変革を起こすのも時間の問題です。たとえば農家が予測モデルを使えば、自律的な農業システムを取り入れられるほか、収穫量を最適化できるようになります [3]。日本の大手IT企業である富士通はレタス生産にAIを活用するなど、こうした変化の先駆者です [4]。
日本の経済と食糧供給に欠かせない水産業も、生成AIで大きなメリットを得られます。AIが生成した正確な資源予測を使って情報に基づいた決定を行えば、持続可能な漁を促進できるでしょう [5]。
スタートアップエコシステムを強化
歴史的なスピードで成長している日本のスタートアップ界隈が生成AIの導入で得る効果ははかり知れません。AIはアイデア出しから実行まであらゆる段階で、データに基づく意思決定、拡大戦略の最適化、プロトタイプ制作のスピードアップに役立ちます。
この変革が実際に起こっていることは、新たに生まれたスタートアップの数を見れば明らかです。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構によると、日本のAIスタートアップの数は2014年以降10倍に増えています [6]。ちなみに下記の図は筆者が以前、コロナ前の日本のAIおよび関連スタートアップに関して書いたレポートですが、このときの結論は日本は大きく遅れているというものでした [7]。
2020~2021年の日本におけるAIスタートアップカオスマップ
こうしたAIを軸にしたスタートアップの急増は、日本のビジネス情勢を一変させるでしょう。スタートアップがもたらす機動力と革新性によって、金融、ヘルスケア、小売りなどの業界ではAIソリューションが急増し、それまでの仕事の形が変わる可能性があります。
クリエイティブ産業を革新
アニメ、マンガ、音楽、ゲームなど日本が誇るクリエイティブ産業は、生成AIの影響のもとルネッサンスを迎えつつあります。AIが作曲した音楽や描いたマンガを使えるようになれば、アーティストは創造力と表現のまだ見ぬ境地へと進めるかもしれません [8]。
『極主夫道』や『北斗の拳』などの有名シリーズを手がける新潮社からは、AIによる最新のマンガが発表される予定です。またAnime News Networkによると、桃太郎伝説を未来的に改作したマンガ『サイバーパンク桃太郎』は、AIソフトウェアのMidjourneyを使って制作・編成されました。こちらは2023年3月9日に新潮社バンチコミックスからフルカラーで刊行されています。
AIが生成したマンガ
ほかにも生成AIの台頭によって、新進アーティストがAI搭載ツールを使って自らの創造力を表現しやすくなり、芸術創造の民主化が進むでしょう。そうなれば、従来の芸術の枠を超えた新鮮かつ多様なコンテンツが一気に増えるかもしれません。
生成AIとともに作る未来とは
生成AIの可能性には魅了されるばかりですが、それに伴って起こる課題への対処も非常に重要です。そのなかには、人材のスキルアップ、AIの倫理的利用の保証、強固なデータインフラの構築などが含まれます。
これらの分野で日本はすでに大きな一歩を踏み出しました。日本政府はSociety 5.0構想を掲げ、経済発展と社会課題の解決を両立するデータドリブンな社会を目指しています [9]。また国内IT企業、学術機関、グローバルなテック事業体が連携し、ほかの先進国に比べて大きく遅れているAI人材の育成にも取り組んでいます [10]。
AIと人間が共存する Society 5.0 のロゴ(出典:経団連レポート)
さらに、AIの責任ある展開を保証する倫理的ガイドラインも策定されつつあります [11]。これらのガイドラインは、社会的信用を確保し、AIが人間のウェルビーイング向上に使われるよう保証するうえで非常に重要です。
今、日本はAIが主導する変革の入口に立っています。これまで培ってきたテクノロジーの力とイノベーションへの取り組みを考えれば、日本は生成AI革命を十分活用できる状態です。ただ、それは本当に実現するでしょうか?
ChatGPTとESGシリーズは今回で終わりですが、私たちMPower Partners Fundは今後も世界を形作るテクノロジーのフロンティアを探っていく予定です。どうぞご期待ください!
参考:
- Autodesk. (2021). What is Generative Design? Autodesk University.
- Mitsubishi Electric. (2022). Mitsubishi Electric Develops AI-based Generative Design Technology. News Releases.
- Liu, L., Ong, Y-S., Shen, X., & Cai, J. (2020). When Machine Learning Meets AI and Game Theory: A Computational Sustainability Perspective. Journal of Computational Science, 44.
- Fujitsu. (2022). Fujitsu Develops AI for Lettuce Production in Japan. Fujitsu Journal.
- Hardman, N., & Bruno, E. (2022). Using AI to Forecast Fish Stocks. Nature.
- NEDO. (2023). AI Startups in Japan: An Overview. NEDO Report.
- Bochev, S. (2020). Trailing Behind: The 2020–2021 Japanese AI Landscape. Medium.
- Zeng, W., Nakano, T., Takagi, H., & Yao, X. (2022). Generative AI in Art and Design: A Japanese Perspective. Journal of Creative Technologies, 9(2).
- Cabinet Office, Government of Japan. (2022). The Society 5.0 Policy. Cabinet Office.
- Osaka University. (2022). AI Talent Development Program. Osaka University News.
- METI. (2022). Draft AI R&D Principles. Ministry of Economy, Trade and Industry.