今やDEI(多様性、公平性、包括性)は世界中のスタートアップエコシステムにとっての重要トピックであり、日本も例外ではありません。しかし主にスタートアップ(特に創業者レベル)におけるDEIが注目を集める一方で、ベンチャーキャピタルはこれまで監視の目を逃れてきました。
それが最近、ベンチャーキャピタル業界におけるDEIの乏しさが少しずつ知られるようになり、この状況がようやく変わり始めています。
実際に投資先企業を見ても、女性やマイノリティの比率は未だ低いままです。コロナ禍の最盛期には状況が悪化し、2020年にはアメリカなど主な市場で女性が創業したスタートアップへの出資が31%減少しました。
幸い2021年には改善の兆しが見られ、特に女性創業スタートアップに対する評価額は向上したものの、VCファンドのダイバーシティは依然大きな問題を抱えています。特に投資職は深刻で、たとえばVCの従業員の45%は女性ですが、投資パートナーにおける女性割合はわずか11%です。マイノリティの状況はさらに厳しく、その割合は全従業員の22%にとどまっています。
多様性に富む投資チームがリスク調整後のパフォーマンスを高めるという証拠は数多く存在します。ベンチャーキャピタルにおける多様性の改善には計画的なアクションが欠かせません。より多様で公平、かつ包括的な組織を構築するには、体系的で測定可能、かつアクション重視のアプローチが必要なのです。
MPower PartnersはESGを重視するファンドとして、設立当初からDEIを組織に組み込むべく、具体的な方針やアクションを確立してきました。これまでの歩みや取り組みには自信がありますが、まだまだ学ぶこと・やるべきことがあるとも感じています。DEIをさらに進めるには厳格なアプローチが必要です。そしてその第一歩は、同業他社に比べてDEIに力を入れるファンドとしての評価を独立機関から受けることだと考えました。
そこで注目したのがダイバーシティVCの認定です。これは私たちが求めてきた土台となるものであり、今後の改善に向けた重要ステップのロードマップにもなります。
そしてこのたび、MPowerはダイバーシティVCのレベル2ファンドとして認定されました。レベル2は最高レベルであり、ダイバーシティVCにとってはアジア初の認定ファンドです。
ダイバーシティVCとは
ダイバーシティVCはファンド内外のDEIポリシーやプログラムを評価・認定するプロセスを提供する非営利団体で、2016年に設立されました。ファンドが認証を得るには、自社の投資戦略や運用にDEIを組み込むためのポリシーやプログラム、さらには実行したアクションの証拠の提出が求められます。また認定プロセスではダイバーシティVCチームが申請を精査するだけでなく、1.5時間のミーティングが開催され、ファンド側はそこで自社のコミットメントやアクション、進捗状況を共有します。
ファンドが受けられる認定レベルには、ダイバーシティ・スタンダード・エントリーレベル、レベル1、レベル2の3段階があり、現在の最高レベルはレベル2です。レベル1とレベル2の認定要件は次のとおりです。
レベル1認定に必要なもの
- 組織的なD&Iステートメントと戦略
- チーフD&Iオフィサーあるいはチャンピオン
- D&Iの測定基準(KPI)
- 採用対象範囲を広げるポリシー
- 採用プロセスにおけるバイアスを軽減するポリシー
- ディールフローにおける属性情報の管理・報告
※4つの追加プログラムポリシー:上記に加えて、採用と人事、社内規則と文化、ディールフローソース、ポートフォリオガイダンスの各セクションでポリシーを1つずつ備えている必要がある。
レベル2認定に必要なもの
- レベル1の要件すべて
- 多様性を考慮した投資戦略
- ポートフォリオインクルージョン評価
※8つの追加プログラムポリシー:上記に加えて、採用と人事、社内規則と文化、ディールフローソース、ポートフォリオガイダンスの各セクションでポリシーを2つずつ備えている必要がある。
ファンドは評価を受ける際、DEIのコミットメント、ポリシー、プログラムだけでなく、DEI目標と計画に対する進捗状況を明確に説明できるようなアプローチが求められています。
ダイバーシティVCの役割はファンドのDEIにお墨つきを与えるだけでありません。VC業界の実務経験者によって設立・運営された同組織は、ファンドがDEIに取り組む際に直面する課題を理解しており、施策を加速させるための実践的なアイデアも提供しています。また、ファンドがDEIに取り組み始める際に使えるツールキットや、VCにおけるDEIを取り上げた調査およびレポート、認定後に取るべきステップやアクションの助言が含まれたカスタマイズレポート、Diversio DEIマネジメントプラットフォームへのアクセスなどのさまざまなリソースも揃っています。
現在、世界中で65のVCファンドがダイバーシティVCの認定を取得しており、そのうち3分の1がレベル2、3分の2がレベル1です。今後の年次審査により、レベル2に移行するファンドは増えると予想されます。
MPowerにおけるDEIの取り組み
MPowerでは、体系的なアプローチを通して組織のあらゆるレベルにDEIを組み込むべく力を注いできました。これまでに定めたポリシーや実践したアクションの一例は次のとおりです。
- DEIポリシーを公表(一部の要素はESGチャーターにも反映)
- 投資先検討の際にDEIを考慮
- 投資先企業にDEIのアドバイスやサポートを提供
- 自社と投資先企業両方の多様性を測るKPIを設定(ゼネラル・パートナー、投資チーム、その他のチームメンバー、社外アドバイザーおよびエキスパート、LPの各レベル)
- 家族のための休業や柔軟な働き方のポリシーを設定
こうしたチームを挙げた取り組みの結果としてダイバーシティVCのレベル2認証を取得できた一方で、今後改善が必要な分野も指摘されました。
- 賃金格差がないかどうか、全職種を対象にした年次での平等賃金分析を実施
- 介護・育児中の従業員が利用できるリソースをまとめた緊急ケアポリシーの確立
- 休業明けの従業員がうまく職場に溶け込むための復帰ポリシーを導入
- 若手とシニアメンバーがペアを組む包括的なメンターシップ・プログラムを立ち上げ
近年、DEIをベンチャーキャピタルのコアテーマにする取り組みが加速し、多くの大手VCファンドが続々とダイバーシティVCファミリーにしています。そうした光景はとても頼もしく、私たち自身もこうしたグローバルな取り組みの一翼を担えることを大変誇らしく感じます。今後の進展が楽しみです。