このところ投資の世界ではESGの存在感がますます増しており、その言葉を聞かない日はないほどです。その一方、こうしたブームのなかESGという言葉だけがひとり歩きしている感も否めません。またスタートアップに向けてESGを解説する教科書はないため、起業家のなかには「聞いたことはあるがよくわからない」「ESGとSDGsはどう違うのか」と密かに思っている人もいるようです。
そこでMPowerでは「今さら聞けないESG」を全9回にわたって一挙に解説。第1回の本記事では、私たちが考えるESGの定義やその本当の意味をお伝えします。
ESGとは持続的な成長のための戦略フレームワーク
ESGとは、Environmental(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字から成り立つ言葉です。ここまでは知っていても、この3つの組み合わせが一体何なのかと問われると、言葉に詰まる人が多いのではないでしょうか。
私たちMPowersでは、ESGを戦略フレームワークだと考えています。このフレームワークは、環境や社会の問題を取り扱う事業に限らず、あらゆる企業で実践可能なものです。
たとえば日本でESG経営を実践する代表的な企業の1社がメルカリです。同社の代表取締役CEOである山田進太郎氏は、ESGについて次のように説明しています。(MPowerインタビューより)
「ESGは企業にとって中長期の成長の核になるものですし、経営手法でありマネジメントのあり方そのものだと思っています。だからESGという切り口で経営を見ていくなかで、事業機会やリスクを特定することで戦略面で様々な先手を打ちやすくなります。とりわけ、ESGのフレームワークは中長期的な思考を促してくれると思います」
メルカリ 代表取締役CEO 山田進太郎氏
ESGとは、企業が持続的に成長するための方法です。企業は事業活動におけるさまざまな要素をこの3つの視点で整理することで、社会やステークホルダーに対して長期的に与える影響を考慮しつつ成長を続ける方法を、あらゆる角度から慎重に考えられるようになります。
ここで言うステークホルダーには、社内外のさまざまな人を含みます。
- 社内:従業員、経営層、創業者
- 社外:投資家、パートナー、顧客、サプライヤー、コミュニティ、政府・自治体
ではここからは、各領域で考えるべきポイントを具体的に見ていきましょう。
環境(Environmental)
まず環境の視点からは、温室効果ガスの排出量やエネルギー管理、製品のリサイクル度合いなど、企業活動が地球環境に及ぼす影響を考えます。3つのなかでは最もイメージしやすい分野かもしれません。MPowersでは特に次のポイントを重視しています。
- 温室効果ガス排出量を測定しているか
- 環境保全を自分ごととして捉えているか
- 環境方針を明確にしているか
社会(Social)
社会は、企業が社会的な責任を果たしているかを確認する領域です。考慮すべき項目には、顧客のプライバシー保護、データセキュリティ、従業員の健康と安全、DEI(多様性、公平性、包括性)の取り組みなどが含まれます。MPowersが重視するポイントは次のとおりです。
- ESGに配慮してビジネスパートナーを選んでいるか
- データ管理の法令遵守体制は整っているか
- データ漏洩はないか
- DEIに関する方針を明確にしているか
- コミュニテイ全体で多様化を促進しているか
- 従業員や取締役におけるジェンダー等の属性比率を可視化しているか
- 労務に関する規制および法律を遵守しているか
- 従業員のウェルビーイングの向上に努めているか
- 離職率は高くないか
ガバナンス(Governance)
企業倫理や、取締役会の管理体制を考える領域がガバナンスです。具体的には次のようなポイントを重視します。
- 行動規範を明確にしているか
- 倫理規範、特にテクノロジー倫理に関する考え方を明確にしているか
- 取締役会に社外の独立取締役は入っているか
- 内部告発者保護の体制を確保しているか
- 創業者にこれまで違法行為はなかったか
ここに挙げたのはほんの一例であり、各社が重視すべき項目は事業ドメインや成長ステージによって異なります。とはいえ、まずは上記の視点から自社の事業を整理してみると、ESGの意味が少し具体的にイメージできるのではないでしょうか。
次回は、ESGがテクノロジー系スタートアップにとってなぜ重要なのかについてお伝えします。