生成AIの時代に企業が勝ち残るには【Building in the Gen AI age③】
2024.10.22 MPower Partners Team

イベント「Building in the Gen AI age – Strategies to get started」の振り返りシリーズ、最終回はパネルディスカッションとQ&Aの内容をお届けします。第1回で取り上げたフランクル氏、第2回の中井氏に加えて、リーガルテックスタートアップ・リセのCEOである藤田美紀氏、パランティアCEOでSOMPOグループCDO 執行役専務の楢󠄀﨑浩一氏が、生成AIのユースケースについて語りました。

【登壇者】

  • ジョナサン・フランクル氏:MosaicMLの創業メンバーであり、現在は世界第2位のAIユニコーンDatabricksのチーフAIサイエンティスト。論文「Lottery Ticket Hypotesis(宝くじ仮説)」の著者
  • 中井淳太氏:Databricksグローバル・バイス・プレジデント
  • 藤田美紀氏:株式会社リセ代表取締役CEO
  • 楢󠄀﨑浩一氏:パランティア・テクノロジーズ・ジャパン株式会社代表取締役CEO/SOMPOホールディングス株式会社グループCDO 執行役専務

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各社の紹介

楢󠄀﨑:パランティアはAIP(AIプラットフォーム)の企業です。AIPとは、モデルを変革するためのアプローチの1つとお考えください。私たちは、GPTなどの市販のモデルを自社のAIPに取り込んで事前トレーニングし、オントロジーという技術を使ってデータを統合してワークフローやアプリケーションを構築できるようにすることで、顧客企業の業務効率や生産性の向上を目指しています。

藤田:リセは、AI契約レビューを提供しています。私は18年間弁護士として働いていたのですが、その間契約に関する課題をたくさん見てきました。それで6年ほど前に自然言語処理におけるAIの進化を知ったとき、その技術を活用した中小企業向けの法的支援サービスを提供できると考えたんです。

大手グローバル企業がAI企業に変わるトレンドを映した事例や、実際に下された戦略的な決定は?

中井:実際に知っている例では、AI予算を技術部門からビジネス部門に移した金融機関があります。特定のユースケースを推進できるようにするためです。あとは、技術予算の再考も進んでいます。

従来、金融サービスや医療、規制産業などのレガシー企業では、支出が150億ドルだとしたら、そのうち140億ドルが運営やメンテナンスに使われており、変革や研究開発に使うお金はたった10億ドルといった状況でした。それが今やレガシーコストを抑えて新たなテクノロジーを導入できるようになったのです。こうした取り組みはCEOレベルで進んでいます。

ほかにも生成AIのトレーニングにお金がかかることから、CDO(最高データ責任者)のレポート先がCFOになった組織変更の例もあります。

影響力のある企業がAIを活用している例や、将来期待できるユースケースは?

楢󠄀﨑:私が働いているSOMPOの例を挙げさせてください。大地震が起こると、何千、何万という家が損害を受けます。損害保険会社はそれぞれの家を確認して保険請求を受けつけ、支払いを行うのですが、そのプロセスにAIを導入することで、多くの案件に効率よく対応できるようになりました。

これは世界を変えた出来事です。将来は、保険会社のみならずあらゆる企業でレガシーな業務のほとんどがAIによって拡張されるでしょう。顧客対応の電話、書類やスプレッドシートの作成などを行う必要はなくなり、人間同士のやり取りを要する仕事に集中できるようになるはずです。

藤田:リーガルテックの分野では、契約文章のレビューなどのユースケースがすでに存在します。しかし、生成AIで達成しうるのはより広い範囲、アソシエイト弁護士の仕事の一部分を担うようなものです。それが実現すれば、法律業務の世界が変わると考えています。

中井:生成AIのユースケースで断然多いのはコールセンターの生産性向上ですね。2番目に大きなユースケースはおそらく不正検出です。実は、不正検出は私が見るなかでもっとも影響の大きいユースケースの1つです。

といっても、よい目的ばかりではありません。たとえば顧客の1社である保険会社ではAIを使った保険請求対応に切り替えたのですが、その結果、生成画像を使った不正請求に対応するために画像の真偽を判別するトレーニングを行うことになったからです。

パネルディスカッションで話す楢﨑氏

企業のAI統合を妨げる最大の要因は?

楢󠄀﨑:3つあると思います。まずは日本の大企業の多くがオンプレミスのレガシーシステムを使っていること。それにデータも必要です。これが最大の課題ですね。

次に文化です。特にデータセキュリティに対する恐怖ですね。適切な対策や教育があれば恐れることはないのですが。

あとは従業員の関わり方です。特に40~50代ですね。彼らがテクノロジーに対してあまり積極的ではない点が3つ目の課題です。

中井:楢󠄀﨑さんが言ったように、最大の制約はデータへのアクセスです。データとAIを非常に効果的に使っている企業は、新規事業での活用から始めています。大企業では、レガシーが少なくクラウドに近い新規事業を選んで特定のユースケースを解決し、価値を示していくのがよいでしょう。Databricksの顧客であるゴールドマン・サックスはその好例です。

AI統合の取り組みを加速させるには?

中井:価値が最も高く、機密度が最も低いデータセットを用いた、一番シンプルなユースケースを見つけることです。あとは結果が簡単に検証できるかどうかも大事です。よいのか悪いのか。ユースケースをそのマトリックスのスペクトルで考えることが効果的です。

楢󠄀﨑:基調講演にもあったように、小さくスタートして問題を検証することが重要だと思いますね。そうしなければ、何が正しいのかわかりませんから。あとは、ユースケースで実際に起こる問題に取り組む必要があります。実験ですから、テストしてどう機能するかを確認することに集中してください。

日本の中小企業に生成AIがもたらす変化とは?

藤田:日本には諸外国と比べて多くの中小企業がありますが、大手に比べてテクノロジーの活用は進まないと思っていました。しかし現実問題として労働力不足が深刻化するなか、いまや中小企業もテクノロジーに頼らざるを得ない状況です。デジタル化が進むなかで、新しいサービスの導入には非常に前向きです。

中井:そのとおりだと思います。相対的に効率の悪い企業にとっては、AIから得られる利益が実際に大きくなりますから。生成AIによってより多くのことができるようになれば、労働力不足をカバーできるでしょう。

楢󠄀﨑:おおむね同意です。AIは日本をはじめ少子高齢化が進むアジア諸国では特に有用でしょう。大企業では仕事の3分の2、もしくは4分の3がAIに置き換えられるかもしれません。人間自身ではなく、単調な作業をAIが担うという意味です。私たち人間が自由な時間を得られれば、もっとクリエイティブで、積極的で、共感を生むような仕事をできるようになります。これにより、会社も従業員も幸せになり、全体のフローも改善されるはずです。私たちの生活がAIによって補完されることで、その質がよくなるのです。

われわれはその変化にどう対応すべきか?

楢󠄀﨑:生成AIをインターンのように扱うのがよいですね。「これをやって」と指示し、自分で考えさせて、問題があれば戻ってきてもらう。それをコントロールするのは人間です。人間が特定の仕事や分野のエキスパートになり、AIによって拡張される仕事のボスになれば、生産性を大幅に高めてよりよいチームを作れるのではないでしょうか。

パネルディスカッションで話す藤田氏

若い人たちは、来るべきAI時代にどう備えるべきか?

楢󠄀﨑:人間中心のタスクに焦点を当てるべきだと思います。共感に基づく仕事や、人と対話する仕事が重要です。現在はプロンプトエンジニアリングが重要ですので、これをおすすめします。

藤田:スキル開発にはさまざまな仕事を経験することが重要です。以前はそうしようにも膨大な時間が必要でしたが、今はテクノロジーのおかげで実際に考える時間に集中できるようになりました。短時間で多くのプロジェクトを経験できるのはすばらしいことです。

中井:「印象に残る人」になってください。人間としての特性、つまりコミュニケーション能力、聞く力、影響を与える力、売り込む力などを磨くこと。それがますます重要になると思います。

生成AIに関して、測定可能なユースケースの活用はどのくらい進んでいるのか?

フランクル:現実のユースケースでも、実際にROIは生まれ始めています。これから活用する企業には、「人間が実行するのは大変だけれどもチェックするのは簡単な仕事」から試すことをおすすめします。

従来の日本企業においてAIへの投資が進まないジレンマをどうするか?

フランクル:進化するか、さもなくば滅びるかです。中井さんのお話にあったように、1989年の世界の時価総額トップ10の企業リストと今のリストと比較して、日本企業がどれだけ残っているかを見るとよいでしょう。

楢󠄀﨑:CEOが先を見越して投資を決断し、そのリスクを承知の上で前進することが重要です。ただ日本の企業でもスピード感が上がってきているので、旧態依然とした株主でもそのような話に耳を傾けるようになっていると思いますよ。

中井:すでにうまく変革している上場企業もあります。フランスのソシエテジェネラルもその1つです。同社はセキュリティコストが70%と非常に高かったのを60%に下げるところから始めました。コスト削減は非常に難しいですが、定量化が可能です。一方で、生産性の向上などといった価値は非常に主観的なので、必ずしも提示できる必要はありません。

戦略を立てるうえで最も重要なことは?

フランクル:リスクを取る意欲です。DatabricksではCEOが私たちの研究チームに多額の投資をしてくれるおかげで、多くの失敗をすることができます。ほとんどの試みがうまくいかず、数か月では手応えを感じられませんが、成功すれば大きな成果が出るでしょう。生成AIは本当に不確実で、複雑です。うまくいくかどうかもわからない。ですから、失敗を恐れずに進むことが重要です。

村上由美子、リセの藤田氏、Databricksのフランクル氏と中井氏、パランティアの楢﨑氏、キャシー松井が並んで立っている様子

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